本邦初の金融サービステック企業「モニクル」ができるまで【2020年-後編-】
原田慎司CEOに聞いてみた
「自由な発想で、くらしとお金の新しい価値を創造する」をミッションに、日本の金融のあり方を再定義したい、という大きな目標を掲げる株式会社モニクル。
モニクルは2021年10月に創業された新しい企業ですが、その子会社を含めると10年以上の歴史があります。
モニクルグループの源流となるのは、2013年に設立された株式会社ナビゲータープラットフォームです。同社はくらしとお金の経済メディア「LIMO(リーモ)」を運営しており、月間UU(ユニークユーザー)数は1200万人を超えるメディアとなっています。
また、2018年に設立された株式会社OneMile Partners(ワンマイルパートナーズ)ははたらく世代向け資産運用サービス「マネイロ」を運営しています。
モニクルは、モニクルグループの持ち株会社として、また経営企画やシステム開発といったグループの司令塔として機能しています。
前回の「本邦初の金融サービステック企業「モニクル」ができるまで【2020年-中編-】原田慎司CEOに聞いてみた|特集|モニクルプラス」では、日本がコロナ禍に突入していく中、経営陣がどのようにワンマイルパートナーズの金融サービスをDX(デジタル・トランスフォーメーション)を実行していったのかについて話を聞きました。
今回は、そのような経営環境の中で行われたシリーズAの資金調達の経緯とはたらく世代向け資産運用サービス「マネイロ」の立ち上げについて、話を伺いました。
※2024年2月6日付で、株式会社OneMile Partnersは株式会社モニクルフィナンシャルに変更いたしました。また、2024年9月4日付で、株式会社ナビゲータープラットフォームは株式会社モニクルリサーチに社名変更いたしました。
コロナ禍の逆境で挑んだシリーズAの資金調達
ワンマイルパートナーズの金融サービスのDXはうまくいきましたね。もうこれで安心という状況だったんでしょうか。
いえ、全く逆ですね(笑)。タイミングが悪いといえばそれまでなんですが、実は2020年の年始から資金調達の準備をしていました。当時は新型コロナウイルス感染症もまだ「新型肺炎」ということで実態がつかみきれないという状況でしたが、こういうニュースに対して資本市場は基本ネガティブに反応します。
そうした市場の雰囲気に対しては、率直に「嫌な感じ」とは思いました。ただ、我々としてはタイミングは選べないので基本的には「仕方がない、やり切るしかないな」とは思っていましたね。
資金調達が必要だったのはどのような状況だったからでしょうか。
シードラウンドとしての資金調達は2019年8月末に実施していました。ですので、2020年当時に準備しようとしていたのは、シリーズAの資金調達となります。
ワンマイルパートナーズとして、2019年11月に第1号店舗として東京・丸の内仲通り沿いの国際ビル1階に出店することができました。誰もが知る一流ブランド店などとともにワンマイルの店舗が並び、来店いただくお客様にも「良い雰囲気の店ですね」とおほめいただくことも多かったです。
スタートアップからしてみると、大変好立地に店舗を出店することができました。シードで出資いただいた株主様からのご紹介などもあり、うまく信用を付けていただいた感じではあります。ただ、一等地なので、賃料をはじめ内装費などにお金はかかります。
また、店舗開店にあたり2019年夏以降、FA(ファイナンシャルアドバイザー)やエンジニアの採用を積極的に進めていましたので、シードで調達したお金は2020年はじめにはつきかけていました。そこにきての「新型肺炎」のニュースだったわけです。
それはなかなか大変なタイミングでしたね。資金調達での投資家の反応はいかがでしたか。
2020年の始めにVC(ベンチャー・キャピタル)を回りはじめたころは「面白いビジネスモデルですね」「利益が出そうですね」というような反応で、資金調達する際のこちらの値付けも強気で行けそうだなと思っていました。
ところが、2月、3月と時間が経過し、当初の中国での新型肺炎という報道からスタートし、その原因も新型コロナウイルスだとされていきます。その感染拡大が日本でも確認されるような状況になってくると、投資家のセンチメントも急速に悪化しました。まさに、さぁっと引く感じですね。彼らとのコミュニケーションを通じてもその変化は感じました。
振り返ってみれば、”はたらく世代向けの資産運用サービス”というコンセプトには興味を持ってもらえたものの、新型コロナウイルス感染症拡大の中、リアルの店舗を全国に展開し、接客するというビジネスモデルは難しいという判断があったと思います。仕方ないですね。
さあ、どうする、という感じでした。
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金融サービスのDXを見極めたベンチャーキャピタリスト
絶体絶命のピンチですね。どうしたんですか?
まずは、できることをやろうということで、(前回お話しさせていただいたように)相談のオンライン化を進め、セミナーのオンライン化を進めていきました。
また、FAもお客様が来られず、特にすることもないので、ナビゲータープラットフォームが運営するLIMO(リーモ)に寄稿することで、少しでも収入を得ようとしましたね。もう必死ですね。
資金調達の環境は改善したのでしょうか?
いろいろとあがいて工夫もしてみたものの、オンライン相談がすぐに立ち上がらなかったことがマイナスに捉えられてしまい、苦戦しました。
ただ、緊急事態の中での経営陣の対応とDXの立ち上がりを静かに見守ってくれていた投資家がいました。それがジャフコの小沼晴義さんですね。ほとんどのVCがコロナ禍の中、当社の投資に対しては様子見を続ける中、小沼さんは当社に興味を持ち続けてくれ、適宜コミュニケーションをとってくれていました。
世の中が混乱している中、当社がセミナーにしても個別相談にしても「リアル」のロケーションを中心とした金融サービスをどうするのか、また、どう立ち回るのかを冷静に見てくれていたと思っています。
そうした経緯もあり、シリーズAはジャフコさんをリードインベスターとして話を進めることになりました。
当時、なんとなく我々のターニングポイントになりそうだなと思って、2020年6月にジャフコのオフィスを訪問した帰りに撮影したのが下の写真です。虎ノ門ヒルズです。
資金調達はいかがでしたでしょうか。
ジャフコさんからのデューデリジェンスを受け、彼らが提示してきた株価評価の金額を聞く機会がありました。当時、もちろん今もそうですが、まずはコロナ禍の中で値付けをしていただけたこと自体が、非常にありがたかったですね。
ただ、その評価額は、残念ながら我々の期待していたほどではありませんでした。私と泉田にとって「すぐにそのバリュエーションで増資をお願いします」という水準ではなかったのが正直なところだったんです。
ジャフコさんもまた出資者から資金を預かった投資家ですから、その出資者に報いるためにできるだけ安く投資をしたいというのは当然です。
ただ、私も泉田も証券アナリストとして長年に渡り上場企業のバリュエーションを行っていた身であります。
特に泉田は機関投資家としてフィデリティ投信の国内最大級の中小型株式運用チームでIPO(新規株式公開)担当の証券アナリストをしていた時期もあります。ですからスタートアップの値付けにはこだわっていたと思います。
私たちの期待値とのギャップがどこにあったかというと、足元の金融サービス事業の手触り感にありました。
なるほど、証券アナリストとしての経験からも、自分たちの事業を客観的に分析したうえで、評価額に対してギャップを感じていたということですね。
実際に、コロナ禍初期に苦しんだ金融サービスのオンライン化ですが、2020年初夏ごろにははっきりとした手ごたえを感じていました。それは数字にも表れていて、2020年6月は店舗を基本的には閉めた状態で、コロナ禍に突入する前の水準の売上高に近い状況にまで達していたんです(当時は手続きは店舗で必要なプロセスもあり、必要なものは店舗で行っていた)。
ワンマイルパートナーズのFA(ファイナンシャルアドバイザー)もオンラインでの面談に慣れ始め、売上もしっかりあげられるようになっていました。当時はそのあたりの成長性をもっと評価してくれてもいいのになと思いました。
結局、資金調達に関してはどのあたりが落としどころだったのでしょうか。
泉田としばらく話をして「今回はバリュエーションを引き上げることにこだわるより、会社の生存確率を上げることを最優先にしよう」ということで意見がまとまり、提示いただいた株価でファイナンスをすることに決めました。
こうして2020年8月にジャフコさんをリードインベスターとし、新たにみずほキャピタルさんを株主に迎えるとともに、シードラウンドで出資いただいていたCoral Capitalさんにも追加出資いただき、約5億円の資金を調達することができました。そして2020年8月末、無事にシリーズAラウンドを終えることができました。
それは、シードラウンドを終えた2019年8月末からちょうど1年後のことでした。その1年の間に新型コロナウイルス感染症が拡大し、自分たちを取り巻く資金調達環境はガラリと変わりました。
コロナ禍を経験して、私たちはスタートアップではあるものの、徹底的に利益にこだわった経営をしていく方針を固められたと思います。
金融サービスのブランドを「マネイロ」へ
シリーズAの資金調達をする中、金融サービス事業はどのような状況になっていたのでしょうか。先ほど、2020年初夏ごろには手ごたえがあったという話もありましたが。
オンラインセミナーやオンライン相談へはデジタルマーケティングを通じ、ワンマイルパートナーズとして集客を行っておりました。それ自体でもうまくいきつつあったのですが、その効率をさらに上げるにはどうしたらよいかという議論がありました。
ネット広告を通じて集客している以上、ユーザーに対してどのようなサービスを提供しているのかを分かりやすく伝えるために、サービス名があった方がいいのではないかという話になりました。そこで、金融サービスのブランド化を推進する中で、サービス名や店舗名を新たに決めようと思いました。
その中で、最終的に2020年12月にコンセプトとして「あなたと考えるマネーのいろいろ」、またサービス名を「moneiro(マネイロ)」に決定し、マーケティングの展開をはじめました。
2020年はコロナ禍初期の混乱期ではありましたが、ワンマイルパートナーズの金融サービスのDXを進め、またそのサービスのブランド化を確立するための行動を起こすことができました。
そうした結果はかなり顕著で、ワンマイルパートナーズの金融サービスの利用者はマネイロを投入することで、過去の成長スピードよりも大きく伸び始めました。まずは、新たにサービス名を決めたことがユーザーの方に受け入れられたと実感しました。
なるほど。次回はマネイロの展開がどうなっていったかについて知りたくなってきました。
承知しました。では、その内容は2021年についてのお話の中でしていきたいと思います。(次回の記事はこちら)
参考資料
モニクル設立ストーリー シリーズ記事
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