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株価10倍を目指す!テンバガー実現のための投資戦略|コラム|モニクルプラス

作成者: 泉田 良輔|2025.02.04

はじめに

「テンバガー」とは株価が10倍になる銘柄を指しますが、一口にテンバガーといっても、その背景にはさまざまな条件があります。果たして、データ分析によってテンバガーを見つけることは可能なのでしょうか。

昨年、私は「マケデコ」というコミュニティ主催のオンラインセミナーにて、「テンバガーはデータ分析で見つかるのか」というテーマでお話しさせていただきました。今回はそのセミナーでお話した内容をコラムにしてお伝えしたいと思います。

テンバガーの種類や、重要な指標であるROE(株主資本利益率)や複利の力、さらには株価の指標であるバリュエーション・メカニズムについて分かりやすく解説します。

マケデコとは、金融市場のデータ分析に関心を持つ個人投資家やプロフェッショナルなデータサイエン ティストが集まり、日々活発な意見交換を行うマーケットデータ分析コミュニティのことです。

 

テンバガーの種類とその違い

テンバガー(10倍株)は2種類あり、時間軸で見ると「短期的に10倍になる株」と「長期的に10倍になる株」が存在しています。

短期的に10倍になる株は、なにかニュースが出て一気に株価が上がるような短期的にサプライズが起こる株です。「バリュー株」と呼ばれ、一般的に割安といわれてる株に多いです。

一方、5年から10年など時間をかけて株価が上がっていき、長期的に10倍になっていく株が「グロース株・成長株」といわれます。業績を重ねながら、振り返って見ると結果的に10倍になっていたというものです。

株価を動かす「ROE」と複利の力

投資で得た利益を再投資していくことで、利益が雪だるま式に増えていくものを「複利」といいます。複利がどういうふうに働いていくのかというのを最初に見ていきましょう。

例えば、元手に100万円があり、金利5%で毎年運用すると、1年間で105万円になります。2年後はこの105万円をさらに5%で運用するので、110万2500円になります。この複利を考える上で大事なキーワードとなるのが「ROE」(株主資本利益率)です。

複利については、よく金利で例えられるのでそのイメージがある方も多いかもしれませんが、実はROE(株主資本利益率)でも同じ考え方ができます。

ROEでは、企業の1年間の当期純利益(最終利益)が、株主が投資した資本に対してどれぐらい稼いだのかを計算します。計算式は簡単ですが、アナリストはROEを出すためにさらに分解して分析していきます。

例えば、株主が100だとすると、25を稼ぐような企業を”ROEが25%の企業”といいます。この会社が毎年、ROE25%を達成し続けて10年経過すると、株主資本は10年後には931となります。株主資本は10年でざっくりと10倍近くになっているのですが、これが株主資本がROE25%のときの株主資本の増え方です。

仮に株価が株主資本の金額に連動するということになれば、株価は10倍近くなり、株主資本が複利で増えていくときのパワーになります。

別の例として、3年に一度、株式資本に対して5%の赤字が起きる会社があるとします。
10年後、株主資本はわずか409に留まります。

このように見ると、頻繁に赤字がある場合では、複利が効きにくいということがお分かりいただけると思います。

こちらのグラフは、ROEが8%から26%の株主資本の増加シミュレーションです。日本の企業はROE8%から10%を目指そうとしている会社が多いのですが、比べて見ていただくと、株主資本の差が非常に大きく開いてしまいます。

世界で最も有名な投資家のウォーレン・バフェットは、「ROEはとても大事だ」ということと、「ROEを継続的に出せる会社がよい」ということを口を酸っぱくしていっています。このことからも、長期投資の場合には、ROEの継続性にこだわる理由が分かるのではないでしょうか。

テンバガーの秘訣の一つは、数年に一度でも赤字を発生させず、高いROEを継続的に維持できることだと考えています。

株価評価の指標「バリュエーション・メカニズム」

株価の動きが分かる「バリュエーション・メカニズム」という公式があります。公式には、ここまででお伝えしてきたROEに加え、株価評価の基準として重要なPBRとPERが登場します。

PERとROEを掛け算するとPBRになるという非常に美しい式ですが、これをさらに深掘りしていきます。

最初にそれぞれの意味をお伝えすると、ROEは株主資本利益率で、当期純利益を株主資本で割ったものです。

PERは株価を1株当たりの当期純利益で割ったもので、グロース株の評価でよく使われる指標です。PBRは株価を1株当たりの純資産で割ったもので、バリュー株でよく使われる指標です。

とてもよく使われる指標とROEとの組み合わせなので、大変分かりやすい公式かと思います。

グロース株とバリュー株のアプローチ

それでは、まずはグロース株について、どのようにバリエーションや先ほどの公式を使うのか見ていきましょう。

グロース株というと、「なんだかざっくり成長しそうだな」、というような感じで捉えてらっしゃる方も多いかもしれませんが、日本語に訳し直すと「成長株」という意味です。何をもって成長というのかというと、企業の売上高や利益といった成長性に期待したものをグロース株と呼んでいます。

PERやPBRといった「倍率」、つまりマルチプルが株式市場全体の平均よりも高いものをざっくりとグロース株といい、明確な定義はあまり細かくはされていません。

グロース株には利益が出ていない企業も含まれているため実はPERが使えないこともあります。なぜなら、PERは利益をベースに株価評価をするものだからです。その場合には、単純に売り上げと株価を比較する「PSR」を使うこともあります。

また、利益が出ていない会社では、配当がない場合も多々あります。グロース株の代表例としては、米国株式市場を代表するAppleやAmazonなどテクノロジー企業7社で構成される「マグニフィセント・セブン」が挙げられます。

グロース株を先ほどの公式に当てはめると、PBRはPERとROEを掛け算したものなので、変数をPERでとり、ROEは傾きとします。PERを動かすとPBRが決まると想定されます。

グロース株に投資するときには、PBRやROEではなく、PERというマルチプルを議論することに時間をかけます。投資家の多くは「このPERは50倍だから高いのではないか」や「企業のPERは20倍だが、30倍まで上昇するのではないか」などと議論されるかと思います。

アナリストも、将来の予想を3期から5期程度作り、「5期のPERはこれぐらいだが、この企業の成長率から考えるとさらに上がるだろう」というような議論をします。ROEはあまりいじらずにPERを議論して、結果的にPBRが決まることがグロース株投資の判断材料になります。

グロース株投資を成功させるためには、会社からすると株式市場にどれだけ成長期待を持たせられるかが鍵となります。グロース株でROEについて細かく議論している会社はなく、「マーケットがこれだけあるので、これぐらいの売上利益が出ているから成長率がこれぐらい」というように、グロース株の議論は成長期待を議論することとほぼ同義といえます。

次に、バリュー株について見ていきます。バリュー株はいわゆる割安株といわれるもので、株価に織り込まれていない資産や収益力があると思われているものです。

バリュー株かどうかを判断する基準として、株価評価やバリュエーションが用いられます。PBRが株式市場全体を下回るメガであったり、PBRが1倍を割っている銘柄は割安株といわれています。

また、TOPIXやRussell/Nomuraのインデックスでは、バリュー株の定義にPERではなくPBRを使うのが一般的です。先ほどの公式を思い出していただきたいのですが、バリュー株を議論するときにはこのROEに注目すればよいと考えています。

株価が上がりやすい最大のきっかけは、このROEが変わることです。例えば、増配をしたり、自己株買いをして償却したり、不採算事業の売却をして収益性が上がった場合に変動します。

このグラフのROEbからROEb’に移行すると、PERの期待が同じでもPBRがぐっと上がります。

つまり、PBRのbが1倍を大きく下回っていても、マーケットにROEが変わるという期待を伝えることができればPBRは大きく上がります。

これがバリュー投資の最大の醍醐味です。

アナリストが企業分析を行うまでの流れ

ここまで、アナリストの投資判断に至るまでのプロセスをご紹介しましたが、アナリストが実際にどのような手法で企業分析を行っているのか、具体的なステップをご紹介します。

アナリストの業務は、まず調査から始まります。IR資料などの公開情報や定量データと、どのような事業をしているのか、どういった競争力があるのかを経営陣や社員、関係者などに取材して定性情報を集めます。

このときにどういったところを見るのかというと、その会社自身(Company)や会社の顧客(Customer)、その会社の競合(Competitor)、いわゆる「3C」といわれるものを基本的に調べます。

また、規制業種だった場合には、監督官庁はどこなのか、誰が規制者なのかを確認するために「Regulatory Authority」も確認します。

テクノロジーの業界では競争ルールが頻繁に変わるため、現在はどういったテクノロジーが活用されているのか、次にどういったテクノロジーが来ると脅威になるのかなども分析します。

収集した情報を総合的に理解した上で、次に収益予想を行うための「アーニングスモデル」を構築します。

売上、利益、キャッシュフローなどのデータを分解・統合して、実績値を元に「ブルのパターンならこのような売上と利益が出る」「メインシナリオだったらこう」「ベアだったらこう」というように、シナリオ分析に基づいて収益予想を作っていきます。
そして、その収益予想に基づいてバリエーションを行います。

やり方は人によっていろいろありますが、ディスカウントキャッシュフローモデルを使って絶対株価を出す人もいれば、PERやPBR、PSRのようなマルチプルで評価する人もいます。どちらも本質的に似た手法であり、DCFでもPERでも、最終的にはほぼ同じ結果になります。

そして、自分のターゲットプライス(目標株価)の理論値と自分の考える理論値を算出し、それに対して株式市場の値段が割高なのか、割安なのかという判断をします。これがいわゆるアナリストのモデルです。

グロース株の場合、上記の通り自分のシナリオとマーケットの水準を比較して割高か割安かを判断できます。

一方で、バリュー株のようにROEが大きく改善するイベント(増配や不採算事業の売却など)については、この収益予想モデルでは反映しづらい部分があります。そのため、周辺取材やマネジメントとのディスカッションを通じて、企業がどのように考えているのかを推察し、自分でシナリオを立てていくことがアナリストが提供できる付加価値のつけ方だといえます。

ここまでのグロース株とバリュー株の話をまとめると、PBRが高いものが広義のグロース株、PBRが安いものが広義のバリューということになります。

PERもPBRも水準が低いものを一般的なバリュー株、PERもPBRも高いものを一般的なグロース株と呼びます。

また、このグラフの第2象限と第4象限ですが、それぞれに特徴があります。

例えば第4象限は、利益が少ないためにPBRは低くPERが高くROEが低い、つまり効率が悪い会社が当てはまります。

次に第2象限ですが、PBRが高くPERが低い、低成長と思われる会社が当てはまります。ROEは高いですが、財務レバレッジが効いている、つまり借金が多い企業ということです。このポジションは広義のバリュー株ではあるのですが、特徴があるので気を付けなくてはいけません。

変化するバリュー株投資家のスタイル

最後に、バリュー株投資に面白い潮流があるので、そちらについてお伝えします。

一般的なバリュー株投資家は、“マーケットは気付いていないが自分だけが価値を知っている会社”に投資をします。言うなれば、「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」という姿勢で、これが昔からよくあるバリュー株投資家の特徴ともいえます。

ところが、「バリュートラップ」という言葉もあるように、いつまでたってもマーケットが気付かなければ株価は変わらないままです。世の中には、そうならないためにアクションをかける人たちがいます。マーケットが気付かないなら自分たちで行動して気付かせよう、「鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス」という姿勢です。

また、「あなたの会社はここが非効率だから改善してください」といった形で提言を行い、マスコミなどを活用しながらマーケットや世間に気付かせる仕掛けをする人を「アクティビスト」といいます。

最近よく見られるのが「鳴かぬなら一緒に鳴こうホトトギス」のように、会社と方向性や目線を合わせ「ここを改善していきましょう」と同じ船に乗り、ともに歩む姿勢をとる投資家です。このように、企業と協力して価値の向上を目指す投資手法は「エンゲージメントファンド」と呼ばれています。

アクティビストとエンゲージメントファンドの共通点としては、成長株に提案しても自分たちが深く関与できる付加価値が少ないため、基本的にはバリュー株を主な投資対象とすることが多いことが挙げられます。

また、アクティビストは、さまざまなアクションを仕掛けてPBRが高いところへ引き上げますが、長期的にグロース株になるかどうかはその後の経営次第です。そのため、アクティビストは一瞬で売り抜けてしまうというのがよくあるパターンです。

エンゲージメントファンドは、資産効率や成長戦略を一緒に考えることで傾きを変えて、一時的にではなく継続的にROEを高く維持できるようにしていきます。成長戦略を描いて、バリュー株からグロース株にしようという人たちが、これに該当します。

同じようにバリュー株を対象にしているのですが、アクティビストとエンゲージメントファンドではそれぞれのスタイルが異なるというところが、近年の面白い潮流です。

参考資料